食事、運動、睡眠のうち、健康のために最も大切なのは、睡眠である


 ダイエットをする、健康を取り戻す、若返るために、食事に気を遣ったり、運動を始める方は多いと思います。睡眠も同様に重要であり、食事・運動・睡眠が三位一体となって、初めて細胞にとって理想的な環境が成立します。これら3つのバランスが乱れていると、動脈硬化や代謝異常により、細胞1つ1つにダメージが生じて、その結果、健康が損なわれます。この中で最も重要であるにも関わらず、軽視されているのは睡眠です。睡眠は心身の健康を保つ最強の薬だということを、実際の睡眠の作用を述べながら、お伝えしたいと思います。

概日リズム(体内時計)と睡眠について

 生物は24時間の昼夜周期に同調して、体内環境を積極的に変化させる機能を持っています。そして、睡眠には夢を見るレム睡眠と大脳を休めるノンレム睡眠があって約90分周期で変動し、朝の覚醒に向けて徐々に始動準備を整えます。

  1. 生物は脳で刻まれた24時間の概日リズムによって、目を覚ましている時間と眠る時間を調整しています。概日リズムは代謝、心臓の働き、体温、ホルモン分泌、排出する尿の量、気分や感情にも影響しています。
  2. 脳の奥深くにある松果体からメラトニンが分泌されて、眠りにつくタイミングをコントロールしています。メラトニンは夕暮れから数時間後に増え始め、午前4時頃にピークとなり、夜明けに向かって減少します。
  3. 体のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)を消費すると、アデノシンという代謝産物が増加します。アデノシンが脳内で作用すると眠りたい欲求が高まり、睡眠圧が上昇します。一晩ぐっすり眠れば、脳内に蓄積されたアデノシンは一掃され、心身ともに活力が溢れるようになります。
  4. レム(REM: rapid eye movement)睡眠ノンレム睡眠が交互に出現し、この2つが共同で記憶スペースの容量不足を解消しています。どちらか一方が極端に少なくなると、心身に深刻な影響が出ます。
  5. 人類はレム睡眠が増えたことで、認知力、創造性、EQ(心の知能指数)が発達し、複雑な社会を築けるようになったと言われています。

良い睡眠の作用とは?

  • 学習や記憶を司る(睡眠で記憶力が高まる)。そのため、睡眠時間が長い子供ほど成績が良い。
  • 不要になった情報や、つらい体験、依存している物質を欲しがる気持ち(甘いもの、アルコール、ドラッグなど)を忘れる、捨てる
  • 運動スキルを高める(脳の記憶を整理して、意識しなくても自然にできるようになる)。
  • スピードと正確性が向上する
  • 寝ている脳は、関係のなさそうな情報や予想のしなかった情報同士を結びつけて、斬新な発想で難しい問題を解決する
  • 免疫機能や、病気や病原菌への抵抗力を強化する(風邪やインフルエンザを撃退する)。
  • インスリンとグルコースのバランスが調整され、代謝が正常化する
  • 食欲が正常化され、健康的な体重を維持する
  • 腸内細菌が元気になって、健康が保たれる
  • 身体の緊張、血圧上昇、血管損傷を予防して、高血圧による心臓発作や脳卒中を予防する。
  • 痛みを軽減させる
  • 幸福感が高まり、抑うつや不安が消える

睡眠不足の悪影響とは?

  • 睡眠不足は集中力を奪う
  • 集中力が一瞬途切れ(マイクロスリープ)、居眠り運転による交通事故を引き起こす。
  • 同様に医療事故の大きな原因になる。
  • 睡眠不足は寿命を短くする。
  • 交感神経系の過活動により、呼吸回数増加、免疫機能低下、ストレスホルモン(コルチゾール)分泌増加、血圧上昇、心拍数上昇を引き起こす
  • 細胞の新陳代謝や疲労回復に関わる成長ホルモンの分泌が低下する
  • 食欲が増し、代謝を低下させて、生活習慣病を悪化させる
  • 甘いもの、炭水化物、スナック菓子などジャンクフードの消費が増える。
  • 睡眠不足の人はダイエットをすると、脂肪より主に筋肉が減少する。
  • 細胞のインスリン感受性が低下するために、慢性的に睡眠不足の人は、Ⅱ型糖尿病を発症する率がはるかに高い
  • 睡眠不足は慢性炎症を引き起こし、ナチュラルキラー細胞減少、マクロファージの働きを撹乱することで、癌細胞を助長させる
  • 睡眠不足は生殖に必要なホルモン、生殖に必要な臓器、外見的な魅力にも悪影響を及ぼす
  • 怪我のリスクが向上する。
  • 遺伝子や染色体末端のテロメアが損傷し、機能障害や老化を引き起こす
  • 徹夜をすると、海馬の学習能力が低下し、成績を下げる。
  • 深い眠りが少なくなるほど、寝ている間に失われる記憶も増える。
  • 感情のコントロールができなくなる(イライラや癇癪を起こす)。
  • 高齢になって認知力が低下する(認知症のリスクが増大する)。
  • 若い頃から慢性的に睡眠不足の人は、アルツハイマー病のリスクが飛躍的に高くなる。
  • 時差ボケ(タイムゾーンが頻繁に変わるストレス)で、脳細胞が破壊され、癌や糖尿病のリスクが高くなる。
  • 薬物、アルコール、糖質依存が遷延する。
  • 寝不足の人は生産性が下がり、モチベーションが下がり、創造性が下がり、幸福度が下がり、怠惰になり、倫理観が低下する
  • 生まれたばかりの時期に睡眠を奪われると、脳の発達の遅れは一生残る。
  • 睡眠不足と攻撃性、いじめ、問題行動との関連性が指摘されている。

その他、概日リズムと睡眠に関する知見

  • 小さな子供は、概日リズムのスケジュールが大人よりも早い。そのため、大人よりも早く眠り、大人よりも早く目覚める。
  • 思春期になると概日リズムの時計が一気に進む。10代の子供は大人よりたくさんの睡眠を必要とし、睡眠をとる時間が大人より遅くなる。
  • 歳をとると睡眠の質が低下したり、睡眠が細切れになり、睡眠効率が低下する。概日リズムも早くなる。
  • これらは生物学的な事実です。子供、大人、老人で概日リズムが異なっているということを大いに憂慮し、心身の健康を損ねたり精神病のリスクを高めるよりかは、自然なリズムの眠りを推奨しましょう。
  • 睡眠不足になると脳内にアデノシンが溜まり、慢性的な睡眠不足の状態を作り上げる。慢性的な疲労や心身のさまざまな症状に悩まされ、睡眠負債が遷延する。
  • 睡眠で記憶を刻みつけるチャンスは1回しかなく、チャンスを逃すと二度と取り戻すことはできない。
  • 失われた睡眠を一度に取り戻すことはできない。
  • 睡眠不足はお金のように一度に借金返済してチャラにすることはできない、ということを肝に命じて、毎日の睡眠を大切にしましょう。
  • そうは言っても慢性的な睡眠不足が避けられない人の場合は、昼寝(パワーナップ)をとって、重篤な健康問題が生じるのを予防しましょう。
  • アルコールはレム睡眠を阻害する。アルコールはお腹の赤ちゃんのレム睡眠も奪う。
  • そのため、アルコールは妊娠中、授乳中は控えた方が良い。
  • 睡眠薬は鎮静薬に分類され、アルコール同様に脳の外側を眠らせているに過ぎない。自然な眠りを阻害し、免疫機能が乱れるなどの理由から死亡率が上昇すると言われている。依存性もある。

自然な睡眠を得るための心がけ

 ヒトは夜行性動物ではありません。太陽が昇ると同時に活動して、太陽が沈むとしっかり睡眠をとるのが、何百万年と続く人類の習慣であり、DNAにそのように刻まれてきました。夜に明るい光を浴びて昼夜が逆転したり、睡眠剤を使用するというのは、ヒトの長い歴史の中でここ100年くらいです。DNAに従って、概日リズム通りに自然な睡眠を得ることが、心身のバランスを整えるために重要なのです。自然な睡眠を得るために、以下のようなシンプルな習慣を続けましょう。

  • 平日も週末も毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる。
  • 夜眠くなったらその時点で布団に入る。
  • 夜は電気の光(LEDやブルーライト)の光量を落とす(メラトニン分泌を正常化する)。
  • 寝ている間は寝室を真っ暗にする。
  • アルコールを避ける(アルコールは肝臓と腎臓を長時間働かせたり、レム睡眠を阻害する)。
  • 午後の遅い時間にカフェインやニコチンを摂取しない。
  • 夜遅くに飲食しない(消化不良や夜中に何度もトイレに行くことで睡眠が阻害される)。
  • 寝室を涼しくする(身体の深部体温にも概日リズムがあり、温度が下がることでメラトニンが分泌される)。
  • 寝る前にお風呂につかる(お風呂から出たあと深部体温が下がり、自然な眠気が訪れる手助けになる)。
  • 就寝前にリラックスする(深呼吸、ストレッチが効果的)。
  • 日中に太陽の光を浴びる(太陽の光は体内時計を整えるカギとなる)。
  • 午後3時以降は昼寝をしない(睡眠圧を無駄遣いしない)。
  • 睡眠と運動は双方向の関係であり、何らかの身体を動かす活動を定期的に行う(座りっぱなしの生活は睡眠の質を下げる)。

 それでも、自然な睡眠を得るのが困難な場合は、

  • 不眠症の認知行動療法(カウンセリング)を受ける。
  • スマートウォッチやリング型のウェアラブルデバイスで睡眠の質をモニタリングするのも、意識付けとなり有効かもしれない。

まとめ

 これまで見てきたように、睡眠不足が心血管、代謝、免疫、生殖機能、精神に悪影響を及ぼし、糖尿病、感染症、癌、心血管疾患、脳卒中、慢性的な痛みや精神病のリスクが高くなります。また、学習効率や生産性の低下で、睡眠不足は余計にコストがかかることが分かります。睡眠がたったの20分から1時間減少するだけで、学習や仕事や運動の効率性が低下するばかりか、心身の異常をきたしてしまうのです。睡眠こそが万能薬であり、身体の不調も精神の不調も、必要なのは睡眠という薬です。寝る子は育つ、と言う言葉がありますが、寝る子は勝つ、と言うのがさらに本質を突いています。

 まわりを見渡しても、睡眠不足を甘くみており、慢性的な睡眠不足のせいで自分の能力が下がり、少しずつ健康が蝕まれていても、それに気づいていないことが多いです。 慢性疾患や代謝疾患で長期間薬を内服していても、睡眠が不足していれば元も子もありません。同様に、癌治療を受けている方、ワクチンを打って免疫を高めたい方も、睡眠不足があれば効果が損なわれます。食事を見直したり、運動を始めるのも重要ですが、寝不足状態であれば効果は限定的です。睡眠を見直すというだけで、安上がりで効果は絶大なので、最優先事項として考えていきましょう✊

You have a good night!😴


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