めまい疾患の中で耳鼻咽喉科が取り扱う末梢性めまいの代表的なものには、良性発作生頭位めまい症(BPPV: benign paroxysmal positional vertigo)、メニエール病、前庭神経炎などがあります。その病態については教科書に書かれていますが、原因については良く分かっていない、ストレスである、などとされています。ストレスと一括りに言っても個人個人いろいろなストレスがあるわけで、ストレスとなりうるものを特定し、それを軽減すればめまい症状は改善しますし、再発予防にもなります。今回はストレスの原因を共に考え、悪い習慣を改善することによって、劇的にめまいが改善した3症例を提示します。
20代 男性
1ヶ月前から頭痛や立ちくらみを繰り返し、他院耳鼻科を受診。軽度の低音障害型難聴を認めたが、原因については不明であるとのことであった。投薬を受けるも改善なく、僕の外来を受診。メニエール病として標準的な投薬がなされていた。よくよく話を伺うと、卒業間際の大学生で、国家試験を受けるためにガリ勉状態が続いていたとのこと。運動不足、睡眠の乱れ、肩こりが顕著であった。肩を中心にストレッチを行うこと、お風呂の中で肩周りのマッサージを行うこと、天気の良い日は外を歩いて日光を浴びること、規則正しく十分な睡眠をとることを指導した。原因について納得され、その後生活習慣を改善し、再診の外来で症状改善を認めたため、内服終了となった。
40代 男性
数十年間ネットビジネスをされている方。便秘型過敏性腸症候群で長期間投薬を受けていた。持続する浮遊感、頭位変換で増悪する回転性めまいのため、入院となった。点滴施行しつつ話を伺うと、上記のためにほとんどデスクワークを続け、食事はパンが中心でかなりの偏食であったとのこと。肩こりが著明。ベット上から起き上がるのも至難の状態であったため、ベット上で可能な肩・腰のストレッチを指導した。(幸い個室に入室されていた。)2日目以降めまい症状は徐々に改善し、「この10年くらいで一番調子が良いです」と話された。週末僕が不在の間は、部屋でストレッチと肩のマッサージを繰り返すように指導した。週明けには軽いふらつきはあるものの、歩行可能であり、帰宅となった。自宅では食物繊維の豊富な野菜を積極的に摂取するように指導し、両親がされている農業のお手伝いをすることを提案した。その後の外来では、めまいは改善し、排便も非常に良好であるとのことであった。
50代 女性
聴力悪化のない浮遊感で受診。肩こりは顕著ではない。頭位変換ではめまいの増悪なし。内服を処方し、体操・運動の生活指導をした。その後の再診でも症状は著変なし。よくよく話を伺ってみると、普段は毎日10kmは走っているランナーでアスリートであった。めまいの原因を突き止めようとさらに話を伺ってみると、何十年も夜間にテレビを見て夜更かしをする習慣があるとのことであった。食事内容も問題なく、原因はそこしか考えられないとお話し、早寝早起きをするように指導をした。次の外来時には劇的に症状が改善し、感激されていた。夜11時前には寝るようにしています!とのことであった。数十年も夜更かしをしていた方が、11時前に寝られるようになったというのは、劇的な人の変化であり、この人は生まれ変わられたんだなと、感じた。
いかがでしょうか。めまいに限らず、さまざまな病気には原因があります。もちろん、生活習慣改善だけではどうにもならない進行した病気もありますし、なるべく医者にかかるな、と言っている訳ではありません。しかし、体調が悪くなればいつも薬に頼る、のではなくて、調子が悪い原因について考えてみる。生活習慣が乱れていないか、ストレスが溜まっているのを我慢してはいないか。そして、運動・食事・睡眠について見直してみることが、病気の予防・治療・症状緩和に役立つことも大いにあるのです。